先日、久々にユニオンスクエアへ出向いた。自宅のあるミッドタウンからブロードウェイを自転車で下り、15分ほどで無事到着。コロナ禍はじまって以来6ヶ月ぶりの単独外出とあって気を張っていたのだが、拍子抜けした。
気を張っていた、というのは、このところマンハッタンの治安が悪化しており、ちょいとそこまでの外出にも必ず夫と一緒だったから。
治安が悪化した理由のひとつは、ホームレス問題にあるという。市のコロナ禍対策の一環で、密集し危険な住環境のホームレスシェルターに住う人々の命を護るため、ガラ空き状態の市内ホテルのいくつかを臨時ホームレスシェルターにしたことで、市の外れにあるシェルターから数千人のホームレスが市の中心地へ移ってきた。その中に数十人にも及ぶセックス・オフェンダー(性犯罪の前科者)が混ざっているという情報がメディアから漏洩し、ホテルの近隣住民住民団体らが、ホームレスを今すぐ他の区域へ移動させなければ市を訴えると大騒ぎ。対し慈善団体は、コロナが油断ならぬ状況にもかかわらずホームレスをシェルターに戻すなど非人道的なことは許さない、そんなことをするなら市を訴えるなどと反発している。
筆者が暮らすタイムズスクエア界隈は観光地でホテルが密集しており、臨時シェルターとなったホテルが数軒ある。実際、たしかにホームレスらしき人々が近所に増えた。だが、歩行者や食事中の人々に悪態をついたり、車の窓ガラスを破壊し盗みを働いたりなどの行為は一部のホームレスによるものであり、治安悪化は彼らだけのせいではない。それに、夏は酷暑、冬は極寒、消防車や救急車、車のクラクションなど四六時中激しい騒音の絶えないこの街でホームレスになりたくてなる人などいないであろう。どのホームレスも気の毒な事情から現在の環境に身を置いているのだ。コロナ以前は溢れかえっていた観光客や出勤する人々が消え去り、小銭や食べ物などの施しがほぼ皆無であろう今、彼らが生きていくのは更に大変なことだろうと思う。先日パン屋の前で並んでいると、ホームレスが一人、物乞いにきた。誰も何も施さないなか、後ろに並んでいた母子にしつこく物乞いしていた。ホームレスが立ち去ったあと、4歳くらいの小さな女の子がhe is hungryと母親に言っているのが聞こえてきて、胸の奥がチクリと痛んだ。母親は子供に、「そうだね。でもね、みんなだってパンを買うためにお金が必要だからね」と優しく言い聞かせていた。
ブロードウェイは、マンハッタンの中心を斜めに横たわる幅広の道で、ミッドタウンからユニオンスクエアまで、ほぼ車両通行止めになっている。道の真ん中が歩道になっており、ところどころに椅子やテーブルが並んでいる。その歩道兼憩いの場が、ここ数ヶ月のあいだにすっかり様変わりしていた。白昼にドラック中毒者たちがゾンビのようにフラフラと彷徨よい、椅子やプラントの縁などに腰掛け、注射器を腕や太ももに刺している者もいる。危害を及ぼす様子がなければ、警官たちは見て見ぬ振りをする。パントマイムのように動きが静止したまま眠っているように見えるのは、ヘロイン中毒者。彼らの意識下では、どこか遠くへ旅している。旅に出たまま戻ってこられず死に至ることもある危険なドラッグだ。そんな光景を横目に、帽子を目深に被りサングラスとマスクを装着し、自転車でけっこうなスピードを出して走り抜けた。
ユニオンスクエアは昔の勤め先があるエリアで、勝手知ったる場所。あいかわらず人出が多く、コロナ以前と変わりない。その日はちょうどグリーンマーケット(青空市場)が出ていたので、トマトを大量に買い込んだ。夏の終わりになると、熟れすぎてカビの生えかかったようなのがいくつか混じったトマトが5キロほど詰まった袋ひとつ6ドル前後で手に入る。トマトソースを作り置きして冷凍しておくのにうってつけだ。真夏の太陽をたっぷり浴びツヤツヤのトマトでつくるソースは、この上ないご馳走。
そのほかにはコーンを2本と、仕事帰りに立ち寄っていた頃は必ず買っていたはちみつを買う。この蜂蜜が濃厚でおいしい。なんでも揃っている日本へのお土産はいつも悩みの種なのだが、この蜂蜜は数少ないニューヨーク産みやげとして重宝する。ただし、瓶入りで重たいので配る人数が少ないときにかぎる。オーナーのAndrewが元気に店先に立ち、冗談全開な口調も健在で嬉しかった。
閉店していた近所のレストランが最近徐々にオープンしはじめていて、しばらく顔を見なかった店員さんが道の向こう側から手を振ってくれる。コロナでものすごい数の死者が出たニューヨークでは、店員さんなどのような顔見知りだけど連絡先は知らないという間柄の人に再会するたび、生きてたんだね!よかった!!とお互い暗黙の心の声を聞きながら涙滲む再会、という出来事に度々遭遇する日々なのであります。
Life goes on.
ということで本日はこの1曲を。日々の写真は後につづきます。
Beatles – Ob-La Di, Ob-La-Da






