ここ最近ニューヨークの朝晩は半袖では肌寒いほどに涼しい日が増えた。もうじきやってくる秋の夜長にちなみ今回は愛するジュネ&カロ監督の映画『Delicatessen』と『The City of Lost Children』について。
『Delicatessen』シャボン玉のシーン:
『Delicatessen』の舞台は食糧難のフランス、とある小さな集合住宅でひとりまたひとりと失踪する住人たち。冒頭で触れた美しいシーンや全体的にコミカルな流れが物語の主題である残酷さを感じさせない、大人向けファンタジー映画だ。ファンタジーといっても砂糖でコーティングされていない容赦ないディテールのシニカルさがこの映画のみどころ。筆者が高校時代愛読していたWave誌で知ったコメディ集団モンティ・パイソン、そして渡米後10代後半に英語聴き取り練習に観ていたサタデーナイトライブのブラックな笑いのセンスにいたく共鳴した筆者にとって、ジュネ&カロ映画のようなひねりをきかせ他とは一線を画す映画が大好きなのだ。
『The City of Lost Children』は、ストーリー・美術ともに二人の強烈な特性がちょうどいい塩梅に生かされた最高傑作。ゴルチエが手がけたノスタルジックな色合いの小洒落た衣装が幻想的で仄暗い舞台設定にとてもよく合っている。ことに不思議の国のアリスを連想させる主人公の女の子の衣装がすてきなのだ。子供も楽しめるダークファンタジーかと個人的には思うし、筆者自身が子供のころにこの映画をぜひ見たかったくらいですが、実際にお子様に見せるか否かについてはご自身の判断ですすめてください。
主人公を演じたJudith Vittetは、かのジム・ジャームッシュがどこかの映画祭かなにかの会場で彼女を見初め「大きくなったら僕と結婚しよう」とナンパしただとかの伝説を映画界に轟かせた美少女。 みなしごのちびっこ男子ギャング仲間たちを顎で使い毒舌でパンクな役柄と彼女の既に完成された美貌のギャップが放っておけないような不思議な魅力を醸し出している。 ヴィスコンティの大傑作『ヴェニスに死す』のタージオを演じた、超絶美少年ビョルン・アンデレセンに標的する優れたキャスティングといえよう。
ところでジュネ&カロ はThe City of Lost Childrenを最後に別々の道へ。とてもかなしい。
彼らの共作に根ざすファンタジー性については別離後それぞれの作品でも依然共通するコンセプトだが、ジュネは『Amelie』や『A Very Long Engagement』などにみられるロマンチックでやわらかい、フランス的ウィットに富んだ映画を、対してカロは『Alien』や『Dante 01』など最新映像テクを駆使したコテコテのSF大作という対照的な映画製作の道を突き進んでいる。
いつかまたジュネ&カロ共作を観られるといいなぁ。