回想記 Nのこと 

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CDを整頓していたら、もう何年も聴いていない懐かしいアルバムに目がとまった。Bebel Gilberto。この季節、耳に心地よく響く音なので久々に聴いてみたら、このアルバムをはじめて聴いた頃のことや、このCDの贈り主Nとの思い出が色鮮やかに蘇った。

その時々の気分にぴたりと合う音楽を素早く選出し、思い立ったらいつでもすぐに聴きたいタチの筆者は、CDがジャンル別にきっちり仕分けされていないと落ち着かない。気づくといつのまにか夫がCDをケースにしまわずに散らかしたままにしてあるので、CDの棚にはいつも目を光らせている。ちなみに、夫は綺麗好きだ。掃除が好きではない筆者にかわり、お風呂とトイレ掃除、掃除機かけ、洗い物、ゴミ出しなど嬉々としてマメに行う。だが、物を元の場所に戻すことだけは、どうしても出来ない。そんな夫に、最初の頃はイラついた。辛抱強く要望を伝えていたこともあったが、ある日ぴたりと止めた。人にはそれぞれ得意不得意がある。イヤなことや出来ないことに労力を注ぐよりも、好きなことや得意な分野を伸ばすほうが遥かに建設的であることに気づいたから。CDをジャンル別に並べるのが好きな筆者が片付ければいいだけの話なのだから。

Nのことに話を戻そう。

Nとはサンフランシスコで出会った。筆者は学生時代、某ホテル併設の懐石料理屋でメートルディー(受付係)のバイトをしていた。その店に筆者の知人と共にNが現れた。後日知人を通じて、Nが遠征で来訪し投手として出場する試合観戦に招待された。Nは大リーグで活躍する野球選手だった。野球に全く興味のない筆者はNの顔も名前も、有名な投手だということも知らなかった。その後知人を通し何度も食事に誘われたが、きっぱりお断りしていた。人見知りだったこともあるが、なにより当時の筆者は日中は大学、夜間はバイトと課題に追われ寝る間もないほど多忙を極める生活だったので、たいして興味もない場に同席する時間がもったいなかったのである。奨学金と学生ローンでなんとか学費は賄えてはいたが、家賃や生活費、教材などすべてアルバイトと貯金に頼っていたので、遊んでいる暇などなかったのだ。

Nはその後も遠征に来るたびに筆者のバイト先に来店し、彼が投手の試合には必ず招待してくれた。野球を知らなくても、熱気あふれる観戦者たちに混じり、顔見知りがマウントに独りで立ち小さなボールを操るのを見るのは楽しかった。そのうちに、いつもしてもらうばかりではさすがに申し訳なく思い、知人も一緒ならという条件付きで、食事の誘いにはじめて応じた。知人の他にも、N専属のマッサージセラピストやそのほかNの仕事関係の親しい方も同席し、始終和やかな雰囲気の会食だった。口数少ないが礼儀正しく謙虚なNに好感を持ち、その席で連絡先を交換してからは、Nが頻繁にメールや電話を寄越すようになる。初対面の印象と違い、大阪弁でよく喋り面白いNに、人見知りだった筆者も次第に心を開くようになっていた。

つづく

Bebel Gilberto – Samba Da Bencao

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