前々回の投稿で何度聴いても涙する曲を紹介した。今までに映画と本以外で感涙したのは、あの曲と、初めて舞踏家の勅使河原三郎(てしがわらさぶろう)公演をニューヨークで観たとき。

勅使河原三郎の公演は、日本に一年間ほど帰国していた20代前半、横浜赤レンガ倉庫での公演チケット入手が叶わず見逃して以来だった。
一緒に観に行った当時は友人だった夫に感涙したことを伝えると、彼も同じく涙したという。夫はいつでも冷静な人なので、それはとても意外な反応だった。思えばあれが、表面的な付き合いを嫌い、人付き合いに関してはall or nothingというキッパリしたスタンスを貫き滅多なことでは人に心を開かない筆者が、 価値観を共有することができる正真正銘の同志として、本当の意味で夫と打ち解けた瞬間だったのかもしれない、とぼんやり回想する。

みなさんは、現在のパートナーや配偶者とずっと一緒にいようと決心したときのこと、憶えておられるのだろうか。筆者が今の夫と結婚したのはつい昨年末だが、そうなることについてなにが決定的だったのか記憶が曖昧だ。夫とは西海岸在住時代から実に30年来の友人で、昔も今もよくコンサートへ一緒に出かける。気づいたらいつのまにか側にいてサポートしてくれていた人、というのがベストな表現だろうか。
コンサートといえば、3月に予定されていたトム・ヨークのニューヨークライブが10月へ延期になった。来年ならまだしも、10月は微妙だ。5月以降はキャンセル不可なので、だいぶ迷ったが仕方なくチケットキャンセル/払い戻しを選んだ。Radioheadもトム・ヨークも元々は夫のほうが古くからのファンなので、彼のガックリ度は計り知れない。自由にコンサートなど集まりに参加できる世界に早く戻りますように🙏
本日は音楽のかわりに勅使河原三郎ニューヨーク公演映像を載せます。一部のみで素晴らしさがいまいち伝わらないかもしれませんが。
遠心力で手足がもげてしまうのではないかというくらい限界を超越した躍動感、氷上を滑るようなしなやかさで舞台を駆け巡り、儚く移ろう情動の刹那を一心不乱に表現する勅使河原氏の姿に、息が止まりそうになった。胸が締め付けられるような切羽詰まった感じがこみ上げ、涙が溢れるのをコントロールできず戸惑う。人間は本当に美しいものを見ると涙が出ることを知った。圧巻という言葉は、まさしく彼の舞踏を表現するために存在する。
Saburo Teshigawara/KARAS – Sleeping Water
サンフランシスコで学生時代、よくお邪魔していた友人宅にある日ふらりと立ち寄ると、ニコニコしている知らない男がいた。とても感じの良い空気を纏った、美しい顔立ちの人だった。人見知りの筆者だが周りはいつもの顔ぶれだったのでちょこっと挨拶してすぐに皆の輪に混じり、食事や飲酒を楽しんでいた。そのうち、一体どんな話の流れからそうなったのか全く記憶にないのだが、その男が皆に質問した。人を好きになって泣いた経験はあるかと。
そんなことを感涙バナシでふと思い出した。その男とは、俳優のミカミヒロシさんであった。

