この世には説明のつかない不思議なことがいっぱいある。そのひとつは、実力と人気は必ずしも比例しないということ。
マイケル・ジャクソンについては、むかしミュージックビデオをちらりと見たくらいで全く興味なかった。それが、彼のライブ映像を最近初めて見て、不覚にも目が釘付けになってしまったのだ。コンサートへ一度くらい足を運んでおくべきだったと後悔している。その実力に度肝を抜かれたことは言うまでもないが、意外だったのは、彼のスタイル。彼の声からそんな印象を持っていたのか、華奢で女性的な体型のイメージだったのが、実際には思っていたよりもずっとがっちりして男性的だ。首も太いし、とりわけ手がものすごい大きくてミッキーマウスみたい。
彼のダンスは静かだ。身体の中心、コア・マッスルがものすごい発達しているので、踊りがうるさくない。髪の先まで無駄な動きが一切ない。ヒップホップ系統のダンスはロボットみたいな硬い動きになりがちだが、彼のそれは柔らかで自然でありながらキレがあり、音と一瞬たりともずれない。踊りって、動き続けていれば手の動きなんかにオーディエンスの視線を集中させることで見栄えをそれなりにごまかせるし、大抵のダンサーはビシッと止まる動きでも指先や頭などがどうしてもリズムに合わせて動いてしまっている場合が多いのだが、彼の動きにはそういったごまかしがなく、静止するときには全身で静止する。ダンスの途中にぴたりと静止するのは、見た目よりも遥かに高度な技術がいる。しかもあれだけの動きをしながら息切れせずに歌っている。どんなことでも、技術面だけなら努力を重ねることによってある程度までの域に達することは可能だ。だが、人々の心を鷲掴みにし熱狂させる魅力を左右するのは、限られた人だけに生まれつき備わったセンスだ。その唯一無二のセンスこそが才能。
アメリカで最近ティーンの女の子たちに大人気のK popアイドルグループ。タイムズスクエアの年末恒例イベントにゲスト出演しているのをテレビで見かけた当初は、英語も上手いし、見てくれだけじゃなく歌と踊りも悪くない、という印象を抱いた。アメリカでアジア人が人気を集めるのは、極稀だ。芸を磨くのに相当の労力と時間とお金を費やし、血の滲むような努力を重ねてきたかもしれない彼らには酷な話だが、マイケル・ジャクソンを見た後では、彼らの踊りがイカやタコなどの軟体動物がクネクネと無駄に身体を動かしてしているようにしか見えなくなってしまった。それに、彼らのパフォーマンスには「僕って、かっこいい」と自分に酔っている部分や、オーディエンスを意識、いわゆるお金儲けを意識していることが見え隠れしているから、涙がでるような感動を誘わない。マイケルや他のアーティスト、全ての偉大な造り手に共通しているのは、純粋に彼ら自身の感覚から創り出されたものやパフォーマンスを世界に向けて発信したものにオーディエンスが共鳴する。それをお金儲けにつなげるのはレコード会社やアーティストマネージメント会社、ギャラリーや出版社などであって、造り手はただひたすらに自分の感覚に集中して発信しつづけていてほしい。
実力と人気は必ずしも比例するわけではないという、この世の摩訶不思議。
Michael Jackson – Billie Jean