息を飲む映像美 映画Cold War

 

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© Pawel Pawlikowski

心待ちにしていた映画Cold Warが届いた。

冷戦時代のポーランドとフランスを舞台に紡がれる音楽家と歌手の物語。監督の両親にまつわる話を参考につくられたフィクションだ。国家間の対立、戦争について考えさせられるストーリー自体も非常に深みのある映画だが、今回はその映像美について触れたい。

COLD+WAR
© Pawel Pawlikowski

とにかくひとコマひとコマがstill photoさながらに美しい。

シネマトグラファーEmmanuel Lubezki(イマヌエル・ルビスキ)による、映画Revenantの壮大で力強く圧倒的な迫力のなかに詩的な静けさが残る映像美を目の当たりにしたとき、黒澤映画『乱』の合戦シーンの映像に標的する才能をみて嬉しくなったものだが、Cold Warの映像にはその感動を超えるものがある。

<Revenant予告編 ***注意:この映像は残酷なシーンを含みます***>

Cold Warの予告編を観てその映像美について事前に把握していたつもりでいたし、それがこの映画を手元に引き寄せた第一の理由でもあった。実際、期待を遥かに上回る映像は衝撃的でさえあった。一瞬たりとも見逃せない、いや見逃してはいけないというプレッシャーに近い手応えを映画を観始めた矢先に感じ、くいいるように見入った。

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© Pawel Pawlikowski

要注目のシネマトグラファーŁukasz Żal(ルーカス・ザル)

Cold Warのシネマトグラフィーを担当したのは、Łukasz Żal。National Film School in Łódźで映画を学んだ新進気鋭の弱冠38歳の若き映像監督。映像の焦点を切り替えるタイミングとフレーミングのシャープさに表れている、そのカメラワークの比類なき抜群のセンス。彼のカメラワークについては、Cold Warと同じ監督作 Ida(2014)を観て以来注目していた。今作で更に磨かれた腕前を見事に披露してくれたŁukasz Żalから今後も目が離せない。

センス=才能

センスというものは、努力して勝ち得られるものではない。

例えばだれかの絵、写真の構図や文章などを真似て世に出しても、その作品が人々に感動を与えることはない。魂がこもっていないからだ。本来備わっているかもしれない才能さえも、盗作にエネルギーを使ってしまったことで開花することなく枯渇してしまう。

人間には到底不可能なレベルの優れた能力が野生動物に生まれつき備わっているように、人間にもそれぞれ何かしら長けた能力が備わっている。売れっ子料理人は、絶対的な味覚センスを持つ。楽器演奏が天才的に上手な音楽家、裁縫など手先の器用な人、絵を上手に描ける人は、脳から手先への伝達機能が人一倍発達している。技術面だけをいうなら努力することである程度のレベルに達することは可能だ。だが先に述べたような映像美を左右するカメラワーク、カリスマ美容師、マノロ・ブラニクのような世界で人気を博す靴デザイナー、人気文筆家、出す曲全てがヒットを飛ばす音楽家に備わっているセンスは、持たざる者がどんなに努力を重ねても身につけることができない。それが才能だ。

選ばれし者だけが授かった貴重な才能が形になったものを見聞きしたくて、人々は美術館やシアターへ足を運び、有名デザイナーが手がけた建築や家具、衣服を買い求める。バレエやオペラ、クラシック音楽鑑賞するには100ドル前後という決して安くはない額を支払ったとしても大して良い席を確保できるわけではない。それにもかかわらず平均収入枠の一般人がいそいそと鑑賞に出かけたがるのは何故か。それは、限られた者だけに備わる特別な能力を目撃したいが由なのだ。

息をのむ映像美

Cold Warの最も印象的なシーンは、川に飛び込んだ主人公が、陽に反射して輝く水面に浮かんでいる映像だ。姉が好きだった絵画オフィーリアを彷彿とさせる画面に目が釘付けになった。

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© Pawel Pawlikowski
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Ophelia

Cold War予告編の日本版は、少なくとも本編をご覧になる前は見ないことをオススメします。当初この投稿内で紹介するつもりで見てみましたが、即決で不採用に。

日本版予告編の編集担当の神経を疑ってしまうような映像構成には怒りが沸き起こったほど。これほどまでにこだわりのある美しい映画をとる監督とシネマトグラファーが許可を出したのか首を傾げるレベルの予告編なので、思わず監督のエージェントに直接連絡してしまいました。返答を得られた暁にはみなさまにもご報告します。

<イギリス版 Cold War予告編>